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なぜコミケは100億円もの経済効果を生むのか?

17Z1-014 井上 碧
毎年75万人を動員するコミックマーケットは、なんと一回で100億円もの経済効果を生むらしい。なぜこのイベントにそこまでの人々が集まるのか?なぜこのイベントは100億円もの経済効果を生むまでに成長できたのか?なぜこのイベントは人々を惹きつけて止まないのか。本格的に調査してみたいと思い、卒業研究にすることにした次第である。
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コミックマーケットについて

 コミックマーケットとは、マンガ・アニメ・ゲームその他周辺ジャンルの自費出版(同人誌)の展示即売会であり、主催はコミックマーケット準備会である。東京ビッグサイト(有明)全館で、夏に三日間・冬に三日間を貸切り、毎年行われている。約140社出展の企業ブースもあり、略称はコミケット(COMIKET)・コミケ(COMIKE)。個人・サークルの作品発表が目的であり、基本的には営利目的事業ではないものを指す。業界団体主催の東京モーターショーなどを除けば一民間団体主催では日本最大の屋内イベントである。同人誌とは、元々「主義・志などを同じくする人たちが自分たちの作品の発表の場として共同で編集発行する雑誌」『大辞林 第二版より(1999)』である。文学、芸術、学術の分野から、マンガを中心とするサブカルチャーの表現形態として日本において飛躍的に発達したものである。
 そして、イベント会場での直接頒布や一部同人誌を取り扱う店舗による限定的な配布形態が原則である。そして、同人誌即売会とは、それらの同人誌の展示・頒布を主とするイベントだ。その規模は小さな会議室レベル(数十サークル)〜コミックマーケット(3万5千サークル)まで規模も多彩である。諸外国ではマンガ・アニメのイベントに併設される形が多い。実際、海外版コミックマーケットと呼ばれているゴールデン・ステート・コミック・ブック・コンベンション、略して「コミコン」では、二次創作を本にすることはなくイラストが中心。さらに公式作品も同時に展示されている中での活動となるので、日本のように過度な表現が少ないのも特徴である。さて、このコミコンだが、その来場者は4日間で約13万人である。それに対し、日本のコミックマーケットは3日間で75万人だ。アメリカの人口約3億3000万人に対する13万人と、日本の人口約1億3000万人に対する75万人だ。これを見比べると、明らかに日本国民の方が、このイベントに対する関心が高いことがわかる。この差はどこにあるのだろうか。

※上記画像
コミックマーケット準備会公式ツイッターより(https://twitter.com/comiketofficial/status/500963580825460738?s=20)

なぜ日本のコミックマーケットはここまでの盛り上がりを見せるのか

 「なぜコミケは100億もの経済効果を生むのか」。コミックマーケットの盛り上がりの裏には必ず常に何らかの漫画やアニメの作品に対するブームがあるということだ。コミックマーケットは日本国内における漫画やアニメのブームと共に大きくなってきた。コミックマーケットの前身である『日本漫画大会』が開かれていた頃から既存のアニメや漫画に対する評論や創作がファン同士で成されるという流れがあったが、インターネットが普及した現在において同じ作品が好きなファン同士でのコミュニケーションが容易に取れるようになったことはコミックマーケットが成長した一因であることは確かだ。さらに、TwitterやPixivなどのSNSで誰でも二次創作が容易に検索・閲覧できるようになったこと、作品の広告や宣伝が行いやすくなったこと、同人誌を印刷する業者の増加と同人誌の制作費用も安くお手軽になったことも同人活動のさらなる普及につながった。また、最近ではコミックマーケットの盛り上がりから、企業が「企業ブース」として参加するようになったことや、マスコミに頻繁に取り上げられるようになったことも要因であると言えるだろう。
 同人誌を製作する者にとっての同人誌即売会での醍醐味は「他人に自分の作品をじかに見てもらえることを体感」できるということだ。実際『COMIC MARKET 35周年調査報告』[※1]のサークル調査によると、コミックマーケットの最大の魅力はなにかというアンケートで「人に見てもらえるのが嬉しい」が41.5%で割合としては一番多かった。次点に「お祭りのような雰囲気があること」、「日頃会えない友人・知人に会えること」、「コミックマーケットでしか入手できない同人誌があること」と続く。コミックマーケットは日頃はSNSなど画面越しでしか交流できないファンやフォロワーと直に会うことのできる場でもあるのだ。

[※1]『COMIC MARKET 35周年調査報告』(2011)
コミックマーケット準備会・コンテンツ研究チームが35周年を記念して作成した報告書。
(https://www.comiket.co.jp/info-a/C81/C81Ctlg35AnqReprot.pdf)

東京五輪問題と新型コロナウイルス

 2020年、東京オリンピックが開催されることによるコミックマーケットを含む同人誌即売会の会場として東京ビッグサイトが使用できないことによる会場問題は数年前から業界の中で「2020問題」と呼ばれ懸念されてきた。なぜならイベントが開催されなければ本の注文は減り、同人誌の発注による売り上げで多くの売り上げを見込んでいる印刷所は大幅な売り上げの減少が予想されるからだ。同人誌の多くは同人誌即売会に合わせて作られるため、印刷会社からしてみれば一番の稼ぎどきが無くなることを意味する。しかし、その2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、コミックマーケットは夏だけでなく冬の開催も中止になったどころか、3月以降は同人誌即売会全ての延期・中止が相次いだ。緊急事態宣言が解除されて数ヶ月経った今、イベント自体は主催者側が感染症対策を尽くした上で開催されるようになってきてはいるが、その参加者はやはり平常時の3、4割にとどまっている(2020年9月時点)。
 コミックマーケットなどの同人誌即売会の醍醐味は、やはり作品の作者や購入者と直接やり取りできるところにある。リアルな即売会が行われないと印刷会社だけでなく多くの関連業者にとっても深刻な状況は変わらない。しかも、東京オリンピックは来年に延期されることとなった。ということは、「2020年問題」が「2021年問題」となって再び訪れるということである。同人作家がコミックマーケットやコミティアなどでスカウトされたことから商業、漫画家デビューをすることもある。同人誌即売会は未来の大ヒット漫画家を発掘できる場でもあるのだ。即売会がなくなってしまえば未来のヒット漫画家を発掘できない。
 世界中が厳しい状況にある現在だが、どんな人でも作品が発表でき、購入してくれる人と直接触れ合えるこの同人誌即売会という文化を、これからも守っていかなければならないのだと強く思う。

井上 碧

好きな授業
私が好きな授業は、「平面構成」の授業です。1年生の時の授業で、入学して一番最初に課題が大変だった授業という覚えがありますが、たくさんの作品を作りきり、きちんと提出できたことに達成感を感じました。

学部を振り返って
企画表現演習5という授業で八王子市の銭湯に賑わいを取り戻すにはという問題を解決するための企画をグループで考える授業がありました。一番大変な授業だったけど、一番やりがいもあり、いい経験になったと思います。

学部で身につけた力
どうすればわかりやすく相手に伝えられるか、納得してもらえるかなど、相手に何かを伝える時にどうすればよりうまく自分の考えを話せるかをよく考えられるようになったと思います。