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RE:Arts and Crafts 生産消費者の可能性

17Z1-062 齊藤 慶太
この研究では持続可能なファッションと廃れないスタイルの実現を目指す過程で、再び手仕事や生活と芸術の統一について見つめ直した。今でこそ機会生産が進歩した事でヴィクトリア朝の時代よりは質の良い物が流通するようになった。
しかし、その分物の扱いが軽くなり、物の使用期限が明らかに短くなった現代に必要な生産消費者の生活を紹介する。
作る衣服環境(問題)
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不況と生産消費者

 生産消費者 [※1]は今まさに必要なライフスタイルだ。物が溢れかえり、エコ=ゴミ減らしが急務となった上に、未知のウイルスと戦う私たちは経済状況も厳しい。
 2020年は世界恐慌以来の厳しい時代だった。「大変な時代こそ着飾りなさい、それも自分で作り出すのよ!」パンクの女王ヴィヴィアン・ウエストウッドは厳しい時こそ着飾る事で、心までは貧しくなってはならない事を教示してくれた。今の時代に当てはめれば、体よりも先に心が感染する事を防いだのだ。世界恐慌によって訪れた倹約の時代に、ヴィヴィアンはテーブルクロスやシーツなどの布地をそのまま使った服を発表した。倹約によってライフラインに関わる事以外の無用な物を整理し、残った物を刺激的な物に作り変えたのだ。こういうタフな時代でのワードローブ更新では、新しく買うのでは無く、今手元にある物の使い方をこれまで以上に考える事で衣類という大枠から外れ、テーブルクロスやカーテン、絨毯といった生地に変わる代用品を応用してワードローブへと作り替えて行った。結果としてリメイクやホームメイドの文化に新しい印象を与え、次第に自分でやるまたは自分でやったという事が大きな価値となる事でファッショニスタはフルーガリスタへと変わって行った。
 今またこのリメイクの可能性が重要視され、大手ブランド古着専門店によるリメイクアイテムのみを扱う部門の新設や個人が生産消費者としてリメイクした物をWebサイトやインスタグラムを通じて販売する光景を頻繁に見かけるようになった。そして昨年はコロナ禍で不足したマスクをいかに確保するのかという場面に差し迫られた結果、各家庭ごとにオリジナルのマスクを作り出したように、消費者が生産行為を行い問題を解決していくことは言うまでもなく当たり前に行われてきたことだ。だが、その為にわざわざ素材を買う事はあまりクリエイティブでは無い。

※1 生産消費者
社会の脱マス化や製品のカスタマイズ性の向上、個人での生産を支援するサービスや製品の登場によって出現するとされる生産活動を行う消費者のこと。

布なら何でもマスクに作り替えることができる。このマスクは市販のマスクよりヒダを一つ減らしたオリジナルのパターンで作成した。

タイムレスを作る生産消費者

 これまでは Do it your self だった事が、マスクを機に Do it for others へ移行しつつある。個人に合わせた生産や自分の為の生産は、必要最低減の規模に対して物に最大限の価値と寿命を与えることができる。スタイルや自分だけの物を自らの手で作り出すという事は、その行為が体験や感動に結びつき、より一層特別な物として服を認識させる事で、タイムレスな一生物へと昇華させる生産消費者は、サスティナブルファッションでも個性を表現する事ができる。

画像1枚目のグラフィックとTシャツはコロナ禍で直接祝えなくなった友達の誕生日をリモートで祝ったときの物。こうした個人での生産を支援してくれるサービスは、使い方次第で一生物の感動や体験を得る事ができる。

画像2枚目は昨年から今年にかけて自宅で出た衣類ゴミを集め、リメイクした物。

生産消費者でしか得られない、生活を豊かにするデザイン思考

 生産消費者というライフスタイルが、実は我々消費者の本来あるべき姿なのではないか。リメイクとは作り替えることで、物と生活のクオリティを上げる行為であり、そのために必要な裁縫や手芸の技術が現代では専門技術のように捉えられがちだが、実際は生活の基礎能力。それを身につける事が衣食住を自己実現する上でのニューノーマルになったことはマスクを通じて痛感させられたと思う。このような生活上で発生した問題に即座に対応することができる問題解決力、言わば自己の生活デザイン力について向き合い、行動を起こすことが何より大切になる。このまま行き過ぎた生産と無防備な消費を続けてしまえば、マスクの次に必須アイテムになるのはゴミ袋だ。将来、私たちがどのような暮らしを送ることになるのかは、現在の私たちのライフスタイル次第である。環境改善のみならず、生活環境にもメリットがある生産消費者というライフスタイルに、あなたも参加してみてはいかがだろうか。まずは、今あるものを最大限活かし、家庭で出るゴミを素材として見る事から始めて行こう。

齊藤 慶太

好きな授業
卒業研究が一番打ち込めた授業かと思います。
これまでの三年間は自分の興味がない科目の方が多く、4年目でやっと自分の好きな事だけできたという実感があります。

学部を振り返って
課題が多かったです。常に自分の拘りとの闘いでした。この学部は広く浅く分野を学んでいける環境が特徴ですが、その分必修科目が多く、やっぱりそこは4年制の総合大学だなと感じました。

学部で身につけた力
デザイン思考です。見た目のデザインは簡単に廃れていきますが、デザインにおける思考は百年先でも成立すると思います。先人の知恵という言葉がありますが、未来の先人の知恵を作る事は現在を生きる私達しかできないと思います。