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電子マンガ書籍の普及率を高めるサービスの考案

17Z1-090 田邨 多美香
ここ数年、電子書籍の売り上げが上昇している。特に2020年は、新型コロナウィルスの影響で外出が難しくなり、その結果、屋内にいながら作品を購入可能な電子書籍の需要が高まっていった。これに着目し、今まで紙書籍にしか触れてこなかった読者層をターゲットとした、新しく電子書籍に触れるきっかけになるサービス「コラボコミック」を考案する。
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研究背景

 2019年、全国出版協会は電子マンガ書籍の売り上げが例年と比べて30%近く上がったと発表した。加えて昨今では、COVID-19の流行により人々が自宅で過ごす時間が多くなったことが影響し、更にこの数値は伸びていると予想される。
 COVID-19の影響を抜きにしても、全国出版協会の発表によれば、2018年と比べた2019年の電子書籍の売り上げは8.7%上昇しており、年々電子書籍を利用する層が増えていることがわかる([図1]参照)。2018年4月に海賊版サイト『漫画村』が閉鎖されて以来、電子書籍の売り上げは年々増加している。また、アプリや動画サイトなど、様々な場面でマンガの広告が見られるなど広告活動が盛んになり、WEBページの広告から作品を知り、気になって購入するというパターンが散見される。
 このように、電子マンガ書籍は年々その普及率を高めている。そこで、それまで電子書籍を利用しなかった読者層に対し、何かのきっかけで利用するようにし、更に電子書籍を活用する読者を増やせないか考えたのが、本研究の背景である。

[図1] 2019年に全国出版業界が発表した、紙書籍と電子書籍の販売数の割合。2015年から2019年にかけて、年々電子書籍の割街が上昇しているのがわかる。

電子書籍に触れるきっかけを作るサービス「コラボコミック」

 コラボコミックは、音楽クリエイターとのコラボでは楽曲が、動画クリエイターであれば動画が実際に流れ、リアルタイムでコンテンツを楽しむことができる、紙書籍にはない要素を持った電子書籍を取り扱うサービスである。音楽クリエイターとのコラボでは、指定のページで音楽を流したり、マンガの内容にあった楽曲を同時に購入・ダウンロードができる。動画クリエイターとのコラボでは、音楽と同じように指定のページで動画が挿入されたり、あるいはマンガの内容に沿った動画がマンガの公開に合わせてアップロードされる。この動画は指定の作品を購入したアカウントのみ視聴が可能であり、より特別感を演出することができる。
 [図2]は音楽クリエイターとのコラボレーションで制作されたマンガ、という架空の例である。一見普通の電子マンガ書籍だが、特定のページに到達すると、マンガの雰囲気に合った曲が自動で流れる。音楽が流れ始めるページには、その音楽のタイトルが表記してある。この漫画の場合は表紙をめくった瞬間曲が流れるという設定だが、作品によっては見せ場となるシーンなど、特定の位置から流れるようにすることもできる。
 [図3]は音楽クリエイター、そして動画クリエイターとのコラボレーションを図に表したものである。音楽の場合は音楽が流れるほか、その楽曲をマンガと同時に購入することも可能である。動画の場合は音楽と同じように、指定のページで動画が流れたり、マンガを購入した人だけが視聴可能な限定リンク公開動画を共有するなどといった特徴を持つ。

[図3] 音楽、そして動画とのそれぞれのコラボレーション例。どちらも作品購入者だけが楽しめるコンテンツなので、作品とクリエイターにより特別感が生まれる。

「コラボコミック」の評価と課題

 「コラボコミック」のサービス内容や仕様を聞いて、「利用したいと思ったか?」といった質問を中心にアンケートを行った([図4]参照)。結果は「利用したい」と答えた人が多数で、非常に高い評価を得ることができた。一方で、「目当てのクリエイター以外の作品は読みたいと思いにくいかもしれない」といった改善意見も見られた。この問題に対して、YouTube などで見られる広告のように、一定のペ ージに次々と移り変わっていく試し読みマンガを掲載し、ひとまず内容を知ってもらうことで興味を引くといった方法で対処していく必要がある。
 他にコラボして欲しい媒体に「小説」が挙がっているが、従来の漫画作品と差をつけるため、小説を小説という媒体のまま組み込むアイデアが必要となる。もう1つのコラボして欲しい媒体「ゲーム」だが、これはマンガの内容と連動したゲームを同時に発表するという提案であった。近年は「フリーゲーム」といった、無料でプレイすることのできるゲームや、スマートフォンでプレイ可能なゲームが毎日多数発表されている。これらは主に中高生といったかなり若い層に人気があり、電子マンガ書籍とのコラボレーションが実現すれば、そういった人々が電子マンガ書籍に触れる機会を実現することができると考える。
 コラボコミックは、作品ではなく作家をメインにして電子マンガ書籍に興味を持ってもらうサービスとして提案したが、コラボコミックがきっかけでクリエイターの新たなファンとなるといったことは十分期待できると考えられる。また、本研究ではコラボレーションを行いやすく、話題性を得やすいインディーズのクリエイターとコラボすることを前提として考案したが、電子マンガ書籍業界が賑わえばインディーズに限らず、商業で活躍するプロの作家とコラボすることも可能であると考えられる。そして、コラボレーション先を増やしていくことで、より広い層の興味を誘う電子マンガ書籍を生み出すことが可能となっていくだろう。

[図4] 「コラボコミック」についてのアンケート結果。全体的に好印象であり、需要のあるサービスになると考えられる。

田邨 多美香

好きな授業
「企画表現演習5」です。自分がこれまで学び得てきたこと全てを活かすことができる見せ場となる授業であり、それだけに適度な緊張感を持って取り組むことができたと思っています。

学部を振り返って
明星大学デザイン学部は徹底して「デザインとは何か」という、基本中の基本を軸に授業が構成されていると感じました。お陰でいつでも初心を忘れず授業に参加することができました。

学部で身につけた力
「人の目線に立ってデザインをする力」です。始めの授業で、デザインはそれを見る人・使う人のためにあるものだと学びました。これがずっと心に残り続けており、デザインをする上で気をつけていることです。