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心と体

音楽と運動能力の向上について

17Z1-001 阿曽 優稀
音楽によって運動能力の向上を図ることはできるのか。また、運動能力の向上がみられる音楽の特徴・共通点を探り、より運動に適した楽曲の制作をすることを目的とする。目的達成のために自身の身体を使って実験を重ねることにより、より細かい特徴・共通点を探る。
医療音楽スポーツ
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研究背景、目的とターゲット

 我々の日常生活において「音」は必ず耳にする。その「音」の中でも心地よいものと雑音の二種類に分けられる。プロのアスリートやスポーツを行う人は多くの場合イヤホンを着用している。これは普段聞いている外部の音や歓声が集中力を低下させたり、緊張の要因となる「雑音」になりうるため、イヤホンで音楽を聴きそれらをシャットアウトしている。その音や楽曲といったものは当事者にどのような精神的・肉体的な影響を及ぼすかを明らかにし、個々人の運動能力をサポートするツールとなることが重要だと考えた。
 本研究の目的はより運動に適した楽曲を制作することである。本研究における「運動」は日常的に行っている「歩く」「自転車を漕ぐ」などとは一線を画するものであり「しようと思ってする運動」のことを指す。例えばダイエットやリフレッシュ、運動不足解消などに行うランニングなどがそれに該当する。よって本研究は運動能力の向上を目指すものを対象とする。目的に対する理由は、日々運動をする上で習慣化している「音楽を聴く」という行為に意味があるのか。また、意味があるとすればどのような意味があり、共通点があるのかを知りたかったからである。
 ターゲットは「日々運動をしている人」。年齢は問わず運動することに興味・関心があり、運動することを自身の成長に繋げたいと思っている人に向けたものである。現在、運動をしている人は世界中に数え切れないほどいるだろう。その中でも「音楽を聴いていない人」と「聴いている人」がいる。「聴いていない人」には
音楽の魅力や運動への効果、脳や精神面へどのように影響を与えるかを知っていただき、今後少しでも音楽に興味を持ち自身の運動能力の向上を目指してほしい。「聴いている人」には“なぜ聴いているのか”を知ってもらい、それを意識した上で運動能力の向上を図ってもらうこと。さらにそれを知った上で音楽に対する関心をより深めてもらうことがゴールとなる。

※1 音楽と心拍
福本 誠、楠 芳之、菅野 和之、長嶋 知正による『音楽のテンポと心拍のリラクセーションへの影響』では、「テンポが遅くなる音楽刺激を聴取することで、被験者全員で音楽刺激のテンポと心拍の同期現象が観察された」とある。このことからテンポの遅い楽曲は心拍を下げ、テンポの速い楽曲は心拍を上げることができるということがわかる。運動時に心拍は上昇することから、運動時あるいは運動前にテンポの速い楽曲を聴取することで、運動に至るための準備を身体の内部からすることができると考える。

※2 音楽と血圧
血圧は体の状態を表す指標、健康のバロメーターとも言えるほど重要な要素である。医学博士の永田勝太郎医師の『音楽療法の生理的研究と心身医学における応用』において、被験者の好きな音楽を好きな音質で、好きなボリュームで聴かせたところ、高血圧のグループでは血圧が下降し、低血圧のグループでは血圧が上昇するという結果が得られている。運動をすると一時的に血圧が上がることから、運動前に音楽を聴取することで血圧を上げ、身体への負担を減らすことができ、運動後も音楽を聴取し続けることで緩やかに血圧を下げることができると考えた。

予想と研究方法

[事前調査]※1※2を踏まえて、本研究では「明るく疾走感のある曲」が良いという予想を立てた。「疾走感のある曲」というのは事前調査でも触れた通り、心拍数と血圧への影響を考えての予想である。「明るい」というのは精神面を考えての予想だ。聴くべき音楽というのは、音楽療法の面からその人の精神状態によって聞き分ける必要があるとされている。例えば、気分が沈み、リフレッシュとして深夜帯に運動をし、気分を上げようと明るい曲を選ぶと相対的に感情が落ち込んでしまう。この場合、暗い曲を聴くことでリラックス効果を得られるとされており、これを「同質の原理」という。本研究では「運動をしようと思ってする」ことが前提となっているため、明るく前向きな楽曲が良いと考えた。
 研究方法は楽曲をテンポと曲調に分け、400m走のタイムを記録する。はじめに①音楽を聴かずに走る②音楽を聴いてから走る③音楽を聴きながら走るの3パターンを計測し、その後③に焦点をあて、どのテンポが最も走りやすく、どのような楽曲が良いのかを考察する。テンポの計測は「Metronom」というアプリを使用し、イヤホンでそれを聴きながら[BPM]※3を100から10ずつ変更し記録する。そこでタイムの良かった楽曲の特徴を考察し楽曲の作成をする。

※3 BPM
Beat Pre Minuteの略。一分間あたりの四分音符の数(拍子)
例)BPM100:一分間に100拍

研究結果

①音楽を聴かずに走る
→モチベーションが上がらず、記録が伸び悩む。緊張感から筋肉が強ばり、また
 外部の音に気を取られたことも原因だと考えられる。

②音楽を聴いてから走る
→①と比べ、モチベーションが大きく異なる。スタート時はリラックスした状態で
 臨むことができ、走行時はより集中することができた。これはリラックスした
 状態から集中への切り替えがスムーズに行えたことが要因だと考えられる。

③音楽を聴きながら走る
→常時リラックスした状態で走ることができた。緊張や集中するといったことがな
 いため、運動を習慣化すること・運動を楽しむことに関しては最も適している。

 ③に焦点を当てた結果、結果が良かったのはBPM150と180のふたつで、再度計測を行い最も良かったのはBPM180だった。BPM150は走行後の心拍数とほぼ同じであり、BPM180は記録を測る際の自身のテンポと全く同じであるという特徴があった。ふたつの記録の差を考えたところ、自身のテンポと同調しているかどうかが大きな違いであると考えた。BPM150は走行後の心拍数と同じだったが、走っている際は別段走りやすいという印象は受けなかったことからBPM180と差が生じたのだと考察した。
 この結果を踏まえ、BPM180の楽曲を8曲選定し記録を測定した。最も記録の良かった楽曲は西島隆弘(Nissy)様の「トリコ」、Perfume様の「Future Pop」の
2曲となった。ふたつの楽曲を聴き、走った印象はリズムが取りやすく走りやすい。景色の見え方が変わり、走ることが楽しくなるというものだった。見えてきた特徴・共通点は明るく・アップテンポであり・リズムがとりやすいという点だ。これらの点を踏まえ、楽曲の制作を行なった。全ての記録を終え見えてきた「テンポを意識させ、明るく跳ねるような楽曲」というのを軸に制作を進めた。

阿曽 優稀

好きな授業
私が好きな授業はサウンドデザイン実習です。私は音楽に興味があり、それに関する知識や技術を身につけたいと考えていました。この授業では楽曲の制作も行いながら、制作以外の知識や先生が体験してきたエピソードなどを聞くことができとても面白いです。

学部を振り返って
個性豊かな友人たちに感化され、自分のやりたいことに自信を持つことができました。一人一人目標があり、自信を持ってそれに臨んでいる姿を見て、自分もその姿に憧れました。

学部で身につけた力
私は「自由な発想力」を身につけました。「生活デザイン基礎演習」という授業で「馬鹿になって考える」と西本先生がおっしゃっていたのがずっと頭に残っていて、普段から何かを考えるときには根本に立ち返って発想することを心がけるようになりました。