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教育

痴漢被害から日本の性教育を考える

17Z1-103 野口 美波
過去に私自身が経験した、痴漢被害の泣き寝入り。あの時、警察に届けていたら犯人は捕まったのだろうか、そんな疑問から痴漢の取り締まり方について調べ始めました。調査で分かったのは、他の性被害に比べ被害が軽いと考えられている実態。そこには、日本の性教育が関連しているのではないかと考え、その観点から痴漢被害を見つめることにしました。
ジェンダーコミュニケーション社会
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痴漢とは何か、人々の認識とその実態

痴漢の定義とは何なのか。この疑問を解決するため、痴漢の取り締まりに使用される迷惑防止条例、47都道府県分すべて確認しましたが、条文中に痴漢の文言が入っているものは1つも存在しませんでした。つまり痴漢とは、罪名でも手口の名前でもない、俗称なのです。また、痴漢事件は暗数が多く、正確な発生件数を知ることは困難です。2010年に警察庁が実施した調査では[※1]、過去一年以内に痴漢被害に遭った人のうち89%が、通報・相談していないと公表していることから、暗数の多さがわかります。さらに、メディアは痴漢冤罪ばかり報道。冤罪に怯える人たちのことも被害者と呼ぶことで、真の被害者からその立場を奪っているのです。ここから、痴漢被害の軽視、通報しづらい環境が被害の減らない現状を生んでいると言えます。
 これらの実態を知った上で、一般的に痴漢がどのような印象を持たれているのか知るため、アンケート調査を実施しました[※2]。その結果、加害者は中年の男性、被害者は若い女性を想像。女性の回答者からは泣き寝入りについて、男性からは冤罪について言及する声が多く寄せられたました。この結果から、痴漢被害に対して男性と女性で問題視する観点に違いがあるとわかります。
 ここまでで明確になった痴漢の実態と、人々の認識を比べると、大きな相違は感じられません。例えば、泣き寝入りが多い印象といった意見は、痴漢事件は警察に被害が届けられていない実態を指すもの。多くの男性が冤罪問題について言及していることからは、多くの人にメディアの影響が及んでいると想像できます。この結果から、被害の実態と人々が考える痴漢の印象に大きな差は存在しませんが、痴漢問題に深く関心を抱いている人は少なく、どこか他人事な回答が多かったように感じます。このことから、当事者以外の人にも、この問題に関心を持ってもらう方法を模索する必要があると感じました。

[※1]警察庁(2011)『電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書について』より著者作成

[※2]10代~50代の男女40名に実施した、痴漢についてのアンケート調査結果

性教育を変えれば、痴漢問題は変えられる?

痴漢の取り締まり方や人々の認識を知る中で、他の性被害に比べ、痴漢被害が軽視されていると実感しました。その要因として連想したのは、日本に根強く残る男尊女卑の考え方。この思想が性教育にも影響を及ぼしているのではないかと考え、性教育の観点から痴漢被害を考察しました。最初に、性教育の実態を知るため、受講者にアンケート調査を実施。[※3]結果をみると、数名は十分な知識を得られたと回答していますが、大半の受講者は授業内容を不十分だと感じていることが分わかります。さらに現状に近づくため、保健教諭へのインタビューを実施。最初に、2019年に15年ぶりに改正された「性教育の手引き」が、教育現場に与えた変化について伺うと、「正直何も変わらない。なぜなら、内容が変わったとしても教師のマインド次第で授業の内容が決まるから」と述べます。また、保健の授業で痴漢を取り扱うことについては、難しいと回答。なぜなら、生徒の中に被害者がいた場合、トラウマを思い出させることになるからだと言います。さらに、痴漢加害者を生む要因としてコミュニュケーションの希薄化を挙げられました。ここから、現代人が抱える孤独の解決が、被害を減らす鍵になると考えました。

[※3]性教育受講者に行った、授業に対するアンケート調査結果

興味をもってもらうこと、それが被害を減らす一番の近道

この研究の目標は、痴漢撲滅を訴えるものではなく、あらゆる観点から痴漢被害について知り、関心を抱いてもらうこと。そこで作成したのが、時代の流れと共に痴漢に対する認識の変化がわかる年表[※4]。その時代の出来事を考察、6つの区分にわけ、それぞれの時代にキャッチコピーをつけました。この年表を見て頂いた方の記憶に残り、電車内で少し周りを気遣う意識をもってもらえれば、痴漢被害は少しずつ減っていくのではないかと考えています。

[※4]時代ごとの出来事を考察し、6つの
区分にわけ、それぞれの時代にキャッチコピ
ーをつけました。

●1910-1960
女性の社会進出と「いたずら」と呼ばれる電車内痴漢
●1960-1980
根強く残る男尊女卑の考え方
●1980-1990
娯楽として消費される痴漢被害者
●1990-2000
痴漢ブームと取り締まりの変化
●2000-2010
冤罪報道にかき消される痴漢被害者の声
●2010-2020
多様性の時代・巧妙化する犯行手口と戦う人たち

野口 美波

好きな授業
私が好きな授業は、「ブランディング論」。3年生から受講できる授業で、さまざまな企業のマーケティング・ブランディングを学ぶことができます。この授業を選んだ理由は、どこを見るとその企業がわかるのか、ものごとの本質を見極める力が養われたからです。

学部を振り返って
入学当初は、才能溢れる周囲の学生に圧倒され、怖気付いてしまうことも。しかし、精一杯努力する姿勢は友人や先生に届き、作品の評価につながりました。さらに「努力を諦めない」という自分の長所に気づけたことも、この学部での大きな学びになりました。

学部で身につけた力
企画表現演習から、誰かのために企画することの重要性を学びました。相手がいるということは、自分に都合のいい考え方では企画する意味がないということ。ここで身につけた常に相手を意識する姿勢を忘れず、今後の仕事に生かしていきたいです。