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工務店4.0

地方の小さな工務店がこれからの時代で発展するための提案
17Z1-131 渡辺 匡哉
私の実家は、鳥取の小さな町で100年以上に渡り工務店を営んでおり、全国的にみても小規模な工務店であると言える。今、確実に時代は変わってきている。その変化に地方の小さな工務店が対応できるのか。そこで、実家の工務店をメインターゲットに、全国の工務店にとって、可能性の広がる未来を想像できるような提案をしたいと考えた。
社会
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鳥取県鳥取市のA町を歩く

 11月の中旬に鳥取県鳥取市のA町をフィールドワークした。
 この月からカニのシーズンが始まるというA町は、漁業が盛んな町である。しかし、その漁業も今では縮小傾向にあるという。
 A町は港町であるが、町全体としてみると田畑も多く、海と陸が美しく共存する町であった。インフラに関しては、港へ続く道が綺麗に舗装されており、この町が港町であることや漁業を売りにしている事が良く分かった。逆に言えば、漁業関係以外の産業の存在があまり目立たなかったが、実際には、工務店や鉄工所、肉屋、理髪店なども存在していた。また港町であることから、かつての造船場跡もあった。
 住宅に関しては、港の方に新しい住宅が多く見られた。しかし少し町の奥に入っていくと古くから残る木造の住宅が多くあり、かつての港町の風景を感じられた。
 また、A町の高齢の女性にお話を聞いたところ、「当時の町民たちは、大工だろうが漁師だろうが分け隔てなく、仲良くしていた。例えば、大工さんが漁師さんに船に乗せてもらって、一緒に魚を捕りに出かけたりしていた。それに、近所付き合いでカニをもらったり、魚をもらったりしていた。いまでは全く無いけど。」ということをおっしゃっていた。

料亭の水槽
カニのシーズンなので
たくさんのカニが入っていた。

A町の路地

A町の海と川の境界
昔の舟が道にあった。

工務店として取り組むべき魅力と課題を見つける

 A町でのフィールドワークによって、多くの魅力と課題を発見した。その中で特に取り組みたいものを抽出した。以下の魅力(○)と課題(□)である。
 ○古き良き漁師町の雰囲気が残る町
 ○潮の香りが漂う町
 ○町民が元気で気さく
 □造船所跡がそのまま残っている
 □産業の連携を感じられない
 □若者を見かけない
 工務店として地域でのつながりを重視し、これらの魅力と課題に取り組む際に意識するべきことは、「SDGs」と「地元学」と「デザイン経営」である。
ー「SDGs」国連加盟国193カ国2016年から2030年までの15年間で達成するために掲げた目標。
ー「地元学」吉本哲郎氏が提唱した、「地域のことをみんなで知り、新しい価値を想像しよう」といった意味を持つ、まちづくりの実践的手法。
ー「デザイン経営」デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法。ユーザーを中心に考え、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれずに、実現可能な解決策を柔軟に生み出すこと。

抽出した魅力と課題によって、SDGsの3 8 11 12 13 14 15 17の目標に取り組めそうである。
 3 すべての人に健康と福祉を
 8 働きがいも経済成長も
 11 住み続けられるまちづくりを
 12 つくる責任つかう責任
 13 気候変動に具体的な対策を
 14 海の豊かさを守ろう
 15 陸の豊かさも守ろう
 17 パートナーシップで目標を達成しよう

改めて地域とつながる工務店として【実例案】

 上記のA町の魅力と課題から、工務店としての取り組みを考えてみる。
 「○古き良き漁師町の雰囲気が残る町」と「□造船所跡がそのまま残っている」「□若者を見かけない」という魅力と課題から、造船場跡を活用したカフェを作るのはどうだろうか。カフェは若者が集まりやすい空間である。若者の集まりやすい場所がA町にはなく、若者の地元離れも問題になっている。加えて、「□産業の連携を感じられない」という課題への取り組みとして、カフェから船に乗ってA町の釣りスポットに行けたり、遊覧船の停泊場としての機能を果たすことで、観光スポットのように活かすことができる。「○町民が元気で気さく」という魅力から、町の人に店員として働いてもらうことで、失われつつある町内での付き合いを生み出すことができる。
 この取り組みによって、SDGsの掲げる項目のうち、前のパートの脚注で示した8つの目標達成を目指すことができ、地域の魅力創出につながる。この場合、工務店としては、カフェ空間の設計、施工と異業種をまとめる役割を担う。
 このようにして、地域と繋がることが地方の小さな工務店のこれからにとって最も重要なことであると考える。一番の理由は、工務店を他と差別化する際に、全国にひとつとして同じものがないその地域との繋がりが、最も明確な違いとして現れることである。
 良い地域づくりは一部の公的機関や一部の企業だけでは行えない。つながりのプロフェッショナルである工務店の力が、これからの時代には必要なのだ。

A町にある造船場跡の一つ。
目立った場所にあるが、活用はされていない様である。

造船場跡を路地側から見た。
存在感があって、味もある。

渡辺 匡哉

好きな授業
「企画表現演習」。企画力と表現力が養われた実感があります。仲間と共に企画しプレゼンテーションを行った日々が、コロナ禍における今、愛おしく感じられます。自分のデザイン的な物事の見方、考え方、取り組み方の基礎ができた授業なので、愛着があります。

学部を振り返って
沢山の知識が身についたと思います。何かを企画するためには、その分野に詳しくなくては話にならない場合があります。これまで様々な課題に取り組んできましたが、どの課題でも調べることから始まり、形にしていくまで、学び続ける必要がありました。

学部で身につけた力
「企画力」。デザイン学部の企画力は、「分析力」「発想力」「統合力」に分類されます。これらの力は学校外での活動でも発揮されしました。世の中の人が意識的にできていなかった事を行えていたことになります。その度に学部で身につけた力を実感します。