カテゴリー
カルチャー

AR技術を用いた映画ポスターの提案

より多くの人に映画館で映画を見てもらうための宣伝方法
17Z1-059 小林 美咲季
コロナ禍により家で過ごす時間が多くなり、配信サービスを利用し映画を鑑賞する機会が増えた。しかし、コロナ禍以前から映画館で皆で映画を見る機会は減ったのではないかと感じ研究を行った。このページでは、ARの技術に着目し、コンテンツマーケティングの考え方を元に「映画館で映画を見てもらう為のARポスター」の提案を行う。
ポップカルチャーアプリ
プレゼン動画を見る!

映画館の現状と問題

 2020年を象徴する出来事といえば「新型コロナウイルスの流行」だろう。家で過ごす時間が多くなり、ビデオ・オン・デマンド(VOD)の配信サービスを利用し映画を鑑賞する機会が増えた。そこでそもそも近年、コロナ禍以前から、映画館の大きなスクリーンで映画を観ることや、皆で映画を観る機会が減っていたのではないかと感じたことが本研究を行うきっかけとなった。
 映画館の問題を調べた結果、今年の映画の興行収入は大幅に減少しており、その理由として以下の3つが挙げられることがわかった。1つ目は新型コロナウイルスの流行、2つ目はVODの普及、3つ目は日本の映画料金が高いこと[※1]である。
 これらの理由から映画館へ客足が遠のいている現状にある。
 さらに、映画館へ行かない理由として挙げられた最も多い理由が「自宅で観る方が楽」であることから映画館は入場料を下げるだけでは駄目であり、「家で映画を観るよりも映画館に足を運びたくなるような情報提供」を行う必要があるのではないかと推測した。そこで着目したのがAR広告だった。

[※1]日本の映画料金と海外の映画料金の比較(2007)
谷國 大輔 『映画に仕組まれたビジネスの見えざる手 なぜ映画館にはポップコーンが売られているのか』(2015、CLAP)を参考に作成。

本当に必要とされる情報とは

 AR広告は、コンテンツマーケティング[※2]ができることが最大の利点である。2015年に電通により提唱された現代の顧客の購買行動DECAX[※3]に当てはまるのがARで、インパクトのあるコンテンツを発信して、驚きと感動体験を提供することで、ユーザーが推奨者になることが期待できる。
 コンテンツマーケティングを行う場合、一方的に企業から情報を発信するのではなく、企業側から発信する情報に「ユーザーが必要としている情報」をうまく組み込んで行くことが大切となってくる。そこで対象50人に、映画を見る際に重要としている情報は何か、制作側から教えて欲しい情報は何か、という内容の2つの質問を行なった[※4]。
 その結果、映画を見る際に重要としている情報の大半は口コミや評判という結果になった。次に多いのがCMや番宣。その次に俳優や監督、ストーリーが同率という結果になった。また、映画の制作側から教えて欲しい情報はあるかという質問に対しては「映画の見どころ」「好きな俳優、監督のコメントなどのオフィシャル性の高いもの」という意見が多く、「聖地巡礼に関する情報があると嬉しい」という意見も数件寄せられた。
 以上の効果を踏まえ「映画館で映画を見てもらうためのARポスター」の提案を行う。比較的低コストな「映画館からの発信で始められる映画のポスター」と、活動が広まった際に効果が期待できる「映画制作会社から発信する映画のポスター」の2つを順番に説明していく。

[※2]コンテンツマーケティング
価値ある情報を発信することで、認知・興味を持ってもらい、ユーザーとのコミュニケーションを計りながら売上を促進するマーケティング手法。

[※3]DECAX(デキャックス)
消費者が商品やサービスを発見し、企業との関係を深め、サービスや商品の確認、そして購入という行動に移し、体験を共有するという一連の購買モデルのことを言う。

[※4]アンケート結果
映画を見る際に重要としている情報(左)、制作側から教えて欲しい情報(右)。

映画館で映画を見てもらうためのARポスター

 まず1つ目の「映画館からの発信で始められる映画のポスター」の提案の手法としては、映画館のロゴがメインのARポスターを製作し、映画館の周辺の施設などに設置するというものだ。そのポスターに専用のアプリケーションをかざすと携帯端末の画面に「映画館のスタッフがお勧めする映画の情報」が日替わりで表示され、出てくるという仕掛けである。画面には「スタッフによるおすすめポイント、公式映画紹介動画の再生リンク、あらすじ、チケット購入ページのリンク」の4つの情報が表示される。アンケート1の内容に基づき、消費者が求めている情報を提示する案である。
 2つ目の「映画製作会社から発信する映画のポスター」という提案は、アプリケーションを起動し、映画のポスターに携帯端末をかざすと、ポスターの上にARの情報が表示されるというものであり、表示されるARの情報はチケットの購入ボタンに加えて「映画の出演者情報、あらすじ紹介、見所を紹介する動画」、さらに、映画本編の内容に関わる「ネタバレ」を含むファンページのサイトに飛べるリンクの4つの情報で構成されている。ファンページの内容にはネタバレが含まれるため、いくつかの決まりを設け、望まないユーザーがネタバレを見ることがないように細心の注意を払う。ファンページの構成は「内容の完全解説や製作秘話」「オフィシャル動画」「ロケ地情報」の3つで構成されており、2つ目のアンケートの内容に基づいている。そして旅行会社などと連携し、聖地巡礼に関する情報を載せ、ファンページから旅行プランなどに案内できるページを設けて観光を促すことも視野に入れている。
 案1でチケットを購入した人、案2で宿予約を行なった人にARのスタンプラリー機能や割引券の配布、試写会の特別招待などの特典を提供することもできる。
 また、本研究では「ココアルツー」というアプリケーションを利用する事を前提としている。ココアルツーでは、ポスター全体を「画像」と認識してマーカーとすることができる為、今すでにある印刷物にもAR機能を加えることができ、比較的導入しやすい事がその理由である。
 最後にこの提案の効果を図るために50名に対して、上記した手法で製作したポスターを利用したいかどうかという簡単なアンケートを実施した。その結果、案1、案2共に「あったら利用したい」という声が全体の8割を占め、「知らなかった映画を知るきっかけになる」「気になった映画のチケットをその場で購入できるから利用したい」という肯定的なコメントが多く見られたことから、この案には効果があるという見込みを得ることができた。
 三密の印象がある映画館だが、感染対策は非常に厳重であり、「換気装置により1時間に3回空気が入れ替わる仕組みになっているため密閉空間と言う定義からは外れる」と感染症学の三鴨広繁 愛知医科大教授は語る。
 コロナ禍で大きく打撃を受けた映画館だが、本研究が少しでも活性化の足がかりになる事を願う。

1つ目の案の「映画館からの発信で始められる映画のポスター」のイメージ。

2つ目の案の「映画製作会社から発信する映画のポスター」のイメージ。実際の映画のポスターにアプリケーションをかざす事を想定している。

小林 美咲季

好きな授業
個人的に好きな授業はグラフィックAです。この授業は架空の商品を企画してポスターやパンフレットを製作を行う授業で、実際に企画をしつつグラフィックデザインにおいての基礎を一通り学べるからです。

学部を振り返って
企画表現演習では人と協力しつつ企画を作り上げる大変さを痛い程学びました。この学部で学んだことは絶対に将来いろんな場面で活かせる為、本当に充実した4年間だったと思います。

学部で身につけた力
それは「プレゼン力」です。人前で話すことがあまり得意ではなかった私が、高校生500人の前で手本としてプレゼンをするまで立派に成長することができました。その学びを隅々までご覧頂けると幸いです。