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文化財の保護・修復を周知するには

17Z1-042 神谷 夕夏
今回の研究で、文化財の保護や修復について調査し、アンケートを取りました。結果、詳しく知られていない事実が明らかになりました。そこで保護や修復を周知するため、対象を「文化財の保護や修復について知らない人」と「文化財を支援したい人」の2パターンに分けて企画しましたので、紹介致します。
伝統社会
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VRや3Dプリンターを駆使した展示

 「VRやクローンを駆使して文化財の修復を身近に感じてもらうもの」について紹介します。この企画の対象者は、「文化財に興味がない人」や「保護や修復について詳しく知らない人」です。このような人へVRやクローンを使った周知の機会を設定し、興味を抱いてもらうと同時に、文化財への理解を深めてもらうことができると考えたからです。では、具体的にどのように感じてもらうのか。
 ここでは、VRや3Dプリンターを駆使した展示を行います。技術の発展から、これらを用いた展示[※1]はすでに行われてきています。しかし現時点では、文化財自体に親近感を持たせるためや失われた文化財を復活させる形で利用されています[※2]。この利用方法で文化財を知ってもらうことも良いのですが、保護や修復を周知するには足りない部分があると感じています。そのため、今回はVRや3Dプリンターを駆使した展示に新たな要素を加えていきます。
 まずVRを用いたコーナーでは、修復を体験しているかのような映像を観てもらいます。これにより、修復がどのように行われているのかを感じてもらうことができます。しかし、作業を最初から最後まで実際の速度で観続けてしまうと、その日のうちに観終えることはできません。また、長く観続けていると疲れたり飽きたりしてしまいます。そこで、最初の一部分を実際の速度で観てもらい、途中から最後までは数倍速で一気に観てもらいます。これにより、短い時間で飽きることなく全ての工程を簡単に観てもらえます。
 3Dプリンターを用いたコーナーでは、VRでは足りない実感を補います。そのために「修復が必要な状態」、「修復途中の状態」、「修復が完了した状態」の3つの工程に分けて、3Dプリンターで制作します。これを、簡単な工程の説明とともに展示します。可能であるならば、素材感が似ているが壊れにくい別の素材で制作し、触れて見てもらいたいとも考えています。それにより、さらに実感の伴った観賞になり、理解を深めてもらえます。
 この2つのコーナーを同時に展示することで、VRでは足りない実感と、クローンでは不足する時間感覚を補い合える観賞が可能になります。結果、文化財について片方だけでは得られないより深い理解を得ることに繋がることでしょう。

クローンを用いた展示イメージ。「修復が必要な状態」、「修復途中の状態」、「修復が完了した状態」の3つの工程に分けて、3Dプリンターで制作する。

※1
文化庁文化財部伝統文化課「文化財の観光活用に向けたVR等の制作・運用ガイドライン(平成29年度版)」

※2
宮廻正明「「芸術のDNA」を模写する復元技術-高精度クローン文化財制作について」

展示を実行するためと修復などのための資金集め

 「展示を実行するためと修復などをするための資金集め」の企画について紹介します。
 この企画の対象者は、「文化財が好きで支援したい人」や「文化財に興味がある人」です。この企画では、資金を集めるためにクラウドファンディングを利用します。しかし、ただクラウドファンディングを用いるだけでは、支援を得るのが難しいと考えています。そこで、魅力的なコースを企画し用意することで、対象に設定した人たちからも積極的に支援していただけるはずです。
 コースの一例として、美術館や博物館がお土産として発売しているお菓子やポストカードなどを福袋のようにセットにしたものや、期間内は鑑賞代を無料にできるチケットなどを考えています。福袋のようにセットにするものでは、今まで興味があった時代や種類以外にも興味を持つことができるかもしれません。また、無料チケットでは、文化財を知る機会を今まで以上に増やすことができます。また、ミニ文化財のセットを制作し、それをお渡しするコースも考えました。サイズは、小さなもので3cm、大きいものは6cmくらいのものにします。インテリアとして気軽に飾れるので、部屋のアクセントにもなります。なるべく本物に近い塗装をしておくことで、家で簡単な観賞会もできます。
 クラウドファンディングに参加してくださった方には、途中経過や最終的な結果を報告する場を設けます。途中経過の報告会では、入場者特典としてミニ文化財と一緒に飾れる、制作過程で使用する型や修復の途中段階のものを差し上げます。これにより、収集したいという気持ちを刺激し、報告会に今まで以上に参加したいと考えていただくことができます。また、報告によってさらに文化財への理解も深めてもらえます。さらに、その場で文化財に興味のある人たちとの交流も生まれることでしょう。集めた資金は修復だけでなく、1つ目の企画として提案した「VRやクローンを駆使した展示」の費用にもなることを想定しています。そこで、支援に協力してくださった方を、報告会の一環としてVRやクローンを駆使した展示に無料で招待もしていきます。結果、文化財に興味のある人にも実感のある展示を提供でき、今後も支援していきたいと考えられるものになります。

ミニ文化財のセットのイメージ。画像にある埴輪や屏風など以外にも、様々な種類の文化財を用意する。

参考資料
FAAVO「蛍丸伝説をもう一度!大太刀復元奉納プロジェクト始動!」

まとめと今後の展望

 以上2つの企画により、資金面での支援と興味を持つ人が増えていくことが循環していきます。このサイクルにより、興味を持つ人の増加で調達できる資金も増えていくことから、貴重な文化財を今まで以上に保護し、残していくことができるはずです。多くの文化財を良い状態で残していくことができれば、今後の文化や歴史の研究がさらに進みます。また、日本の優れた美術品を多く観ることができれば、美的感覚を養うことに役立つと考えています。
 また今回の企画提案では、現在あるものに新しい要素を足す形での提案をしました。しかし、今後も科学技術は発展を続けていくことでしょう。今現在も、5Gの開発が進んでおり、まだ見ぬ技術も開発されています。VRも今では簡単なものなら各家庭で楽しむこともできます。同じように3Dプリンターも各家庭で利用できるようになり、5Gで重いデータも簡単に送受信できるようになれば、気軽に家で展示会を開けるかもしれません。そして、今以上に文化財の保護や修復に触れる機会を増やすことに繋がり、周知できると考えています。
 これらの研究が、未来の歴史研究や若い世代の美的感覚の向上に繋がることを願っています。

神谷 夕夏

好きな授業
私が好きな授業は「マンガデザイン」です。2年生になってから受けることができるようになる分野科目です。この授業を選んだ理由は、クラスメイトのイラストを見ることができ、参考や刺激をたくさんもらえる授業だからです。

学部を振り返って
明星大学のデザイン学部はデザインすることだけでなく、企画を立てて提案することを学んだ4年間でした。また、私自身の将来を広げることにも繋がったと考えています。

学部で身につけた力
他人の意見にどのような利点・欠点があり、その利点の活用方法を考えることができるようになったと感じています。特に企画表現の授業で意見交換をする際に、相手の意見を否定しないよう心がけることでできるようになったと考えています。