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集客デザインと空間デザイン

16Z1-041 鹿野 梨央奈
目立つ建物には存在感がある。そのような建物は多くの人に認知されることで集合場所としても利用されたり、たくさんの人が集まっていたりする場面を目にすることがある。
そういった目立つ特徴的な外観をもつ建物の効果や工夫と、集客との関連を調査することで、集客力のある商業施設をつくるための条件を考察し、実際に企画として提案する。
テーマパーク空間設計心理
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集客できる商業施設の2つの条件

 研究の結果から、集客できる商業施設をつくるための条件は2つあると考える。
 一つ目の条件は「属性ではなく欲や悩みでターゲットを設定する」ことである。
 集客に苦しむ経営者に向けた支援を行っている正岡真氏はその著書で、ターゲットを欲と悩みから設定することで効果的な広報が出来ることを指摘している[※1]。
 また人が集まる場所・行列ができる場所を100箇所以上訪れたフリーライターの内藤考宏氏はその著書で、人が集まる場所を複数例に挙げ、欲や悩みを解消できる場所に人は集まることを指摘している[※2]。
 以上の2点から、集客できる商業施設の条件には「属性ではなく欲や悩みでターゲットを設定する」ことが重要であると考える。
 二つ目の条件は「ユーザーエクスペリエンス[※3]に配慮する」ことである。
 デザインコンサルタント会社IDEOの社長兼CEOであるティム・ブラウン氏は、その著書で「機能的なメリットだけでは、顧客の心を捉えたり、ブランドを差別化して顧客を維持したりするには、もはや十分ではない[※4]」と述べている。物が増え、選択肢が増えた消費社会においては商品の機能だけではなく、利用に関わる一連の動作をいかに快適で便利なものにするかという点が重要になるのである。
 つまり、商業施設においては、利用する際の動作や行動に対し不快や困難がないように、外観や内装などにおいて、店舗のコンセプト、メッセージ、利用方法やその場所の特性などをわかりやすく発信できるように考えられていたり、ワクワクした気持ちや意欲を与えられるような工夫を施すこと、つまり「ユーザーエクスペリエンスに配慮する」ことが必要であるということである。
 以上のことから「属性ではなく欲や悩みでターゲットを設定する」、「ユーザーエクスペリエンスに配慮する」の2つが集客できる商業施設をつくる際の条件になると考える。

※1 正岡真『小さなお店のバカ売れ集客の考え方』
Amazon Services International, Inc.正岡氏は、商品に当てはまりそうな属性の人をターゲットにすると、チラシや新聞折り込みのような不特定多数に向けた宣伝しかできず効果的ではないので、ターゲットを属性ではなく悩みや欲で設定する必要があるといったことを指摘している。

※2 内藤孝宏『人を集める技術!』2010年 毎日新聞社
内藤氏は、「新橋プラモデルファクトリー」、「渋谷109SBY」などの人が集まる場所には、悩みや欲を解消する場であるといった共通点があることを指摘している。

※3 泉浩人『競争戦略としてのユーザーエクスペリエンスデザイン』2016年 536頁
システム設計プロジェクトを多数手がける泉氏は、ユーザーエクスペリエンスとは「消費者が、企業やその製品、サービスに関わることで生み出される全ての経験や体験」であると説明している。

※4 ティム・ブラウン『デザイン思考が世界を変える』2019年 早川書房 147頁

ブックカフェ「Last pages café」

 前述した集客できる商業施設をつくるための条件2つをそろえた商業施設として、新たに考案したのが集客できるブックカフェ「Last pages café」である。都内の騒がしい場所に位置するこのカフェは、約40坪の小さな敷地、地下1階、地上1階ロフト付きという構成になっている。特徴的な本をイメージした屋根や、わかりやすい入り口、小道が続く先にカウンターとテラス席が広がり、屋内は開放的な高い天井の回遊性のある自然を感じさせる空間になっている。

カフェ入り口

回遊性のある内部

悩みを解消し、ユーザーエクスペリエンスに配慮した空間

 まず条件の一つである「属性ではなく欲や悩みでターゲットを設定する」ために、読書する友人を参考にペルソナを作成し、その欲と悩みを検討した。その結果、ターゲットは「静かで統一された空間」、「他人の存在が気にならず集中できる環境」という欲を持っていると推測された。
 そして上記のようなターゲットが持つ欲や悩みを解消し、且つ二つ目の条件である「ユーザーエクスペリエンスに配慮する」ために、この施設には2つの工夫を施した。
 ひとつめの工夫は「利用する際の動作や行動に対し不快や困難がない施設にする」ことである。具体的には、お店が見つけやすいよう特徴的な本の屋根を採用する。また「静かな環境」を提供することができる場所であることを伝えるため、自然の色合いや動植物に関連するモチーフを使用して統一する。さらに入り口はわかりやすい構造で、誰でも使いやすい大きさにし、サービスの内容が入店前に確認できるように掲示物を置く。店内の椅子とテーブルの高さも最適なものに、設備の場所や使い方なども明確にする。手元に不均一な影ができないように照明を調節する。
 ふたつめの工夫は「価値のある思い出を生む施設にすること」である。ブックカフェでの体験を特別なものにするため、入り口を入るとすぐに店内につながるのではなく、続く小道の先にカウンターと屋外の客席が見えるような構造にすることで、ブックカフェを騒がしくて動きのある外の世界から隔離し、本の世界に没頭できるよう演出する[※5]。地下1階のスペースは会話禁止で、さらに電波の届かない構造にすることで騒音のリスクをゼロにし、集中できることが約束された空間をつくりあげる。そして楽しい気持ちや学習意欲が湧くよう新広島市民球場や国際教養大学中島記念図書館といった施設で採用されている回遊性のある遊環構造や連続性、高低差を利用した構造にする[※6]。
 以上のような、集客できる商業施設の条件「属性ではなく欲や悩みでターゲットを設定すること」、「ユーザーエクスペリエンスに配慮すること」を満たしたブックカフェ「Last pages café」を提案する。

入り口イメージ図

地下一階イメージ図

※5 栗田房穂『増強版 ディズニーランドの経済学』2012年 朝日文庫 位置No.735
栗田氏は著書で、「現実との距離感を出すには中間地帯がいる」と述べている。

※6 仙田満『人が集まる建築』2016年 講談社 29,55頁
仙田氏はその著書で、遊環構造や連続性、高低差を意識した構造が、人を集め楽しませること、学習意欲を喚起することを指摘している。

鹿野 梨央奈

好きな授業
一番記憶に残っている授業はメディアデザインです。3Dプリンターを使用する際、機械の性質上、上向きに尖った部分はとぐろを巻くように出力されていて、まさにソフトクリームのようでした。その時にできた曲が私のスマホに入っています。

学部を振り返って
デザインというものの本当の意味を、初めてしっかり知ることができた場所でした。今まで自分の中で曖昧だったアートや美術との違いや、その境界についても意識を向け、考えることができました。

学部で身につけた力
デザインが何なのか、デザインがもつ意味を実践を通して理解し、考えられるようになったことで、間違いなく世界の見方が変わったと思います。そして何よりも、ここでの経験全てがこれからの私にとって力になってくれると考えています。